「飲食店の接客業とはなにか?」と聞かれたら、自信を持って答えられるでしょうか?恐らくさまざまな回答が出てくると思います。
お客様に楽しく過ごしてもらい、また来たいと思ってもらうためにも、飲食店での接客はとても大切です。
本記事は『サービスのチカラ』の著者である遠山 啓之氏監修のもと、飲食店の接客業について解説します。接客で飲食店を成長させたいと感じている人は必見です。
■この記事の監修者
遠山 啓之(とおやま ひろゆき)
- 株式会社LEAD LIVE COMPANY 取締役副社長
- 一般社団法人レストランテック協会 顧問
- 居酒屋甲子園 アドバイザー
- 自称『サービスオタク』
株式会社グローバルダイニング、株式会社プレジャーカンパニーと飲食業界の現場で20年以上接客と教育に携わり、2020年11月【株式会社LEAD LIVE COMPANY】創業。
『見えない接客の見える化』『誰でもわかる!すぐできる!』をテーマに、研修やセミナーを年間100件以上のペースで開催。
学校の臨時講師、大手通信企業接客研修など、業界・業種を超え活躍中。
飲食店の接客業とは?
飲食店の接客業は、大きく以下の2つに分けられます。
- サービス
- ホスピタリティ
「どちらも同じ意味なのでは?」と思った人もいるかもしれませんが、この2つの言葉には明確な違いがあります。接客業を正しく理解する上で、サービスとホスピタリティの違いを知ることは大切です。まずはそれぞれの違いを確認していきましょう。
サービス
サービスの語源はラテン語のservus(奴隷)です。サービスには主従関係があり、サービスを提供する飲食店と、対価としてお金を支払うお客様という関係性になります。
つまり、1000円の商品に対して、お客様が1000円を支払うのがサービスです。サービスは等価であり、本来であれば「おもてなし」の要素は含まれていません。
ホスピタリティ
ホスピタリティの語源もラテン語であり、hospes(客人をもてなす人)から派生しました。昔、聖地巡礼をしている旅人に無償で食べ物や宿を与えた人が起源となっており、病院(ホスピタル)やホテルと語源が一緒です。
ホスピタリティは日本でいうところの「おもてなし」の部分にあたり、等価で行うサービスとは別の、人として相手の心を慮ることです。
日本の飲食店における接客業
サービスとホスピタリティの違いを理解したうえで、次は日本の飲食店における接客業がどのようになっているか確認していきましょう。主な特徴は以下のとおりです。
- サービスとホスピタリティが融合している
- ホスピタリティが先行する時代があった
それぞれを掘り下げて確認していきます。
サービスとホスピタリティが融合している
日本の飲食店における接客業の特徴は、サービスとホスピタリティが融合していることです。「ここまでやってくれるのか」とお客様が思うことも多く、「おもてなし」を含めて接客と捉えている人が多いでしょう。
海外に目を移すと、サービスとホスピタリティは明確に区別されています。わかりやすいのがチップの存在です。対価を支払って受けるのはあくまでサービスであり、ホスピタリティに対してはチップを支払います。
日本にチップが定着しないのは、サービスとホスピタリティが融合している接客文化だからだといえるでしょう。
ホスピタリティが先行する時代があった
前提として、ホスピタリティは接客する人のマインドが本質であり、本来マニュアル化できるものではありません。
ところが、日本の飲食店では「おもてなし」にフォーカスが当たり、ホスピタリティが先行する時代がありました。
日本の接客はサービスとホスピタリティが融合して成り立っています。本質的にマニュアル化できないホスピタリティレベルを上げることばかりに気を取られて、肝心のサービスレベルをないがしろにしてしまうと、結果として接客そのものが劣化することになるので注意しましょう。
例えば、親身になりすぎてひとりのお客様と話し込んでしまうことで、他のお客様のドリンク提供が遅くなるのは、サービスレベルが下がっており、接客が劣化しているといえます。
飲食店の接客業におけるサービス
お客様からお金をいただいて等価で提供するサービスは、お客様にとって「当たり前」の部分です。そのために以下のことを肝に銘じておきましょう。
- 失点しないことが大前提
- お客様の不安が溜まると不満になる
サービスのポイントを確認していきます。
失点しないことが大前提
お客様にとっての「当たり前」の部分であるサービスは失点しないことが大前提です。
1000円のあんかけ焼きそばを例にして考えてみましょう。お肉や野菜が少なかったり、あんがぬるかったりすると、お客様は1000円を払ったときに損した気分になります。お店のスタッフが笑顔で気を利かして接客したとしても、お店の評価はマイナスです。
当たり前のサービスが劣化してしまうと、それだけでお客様は二度と来店しなくなります。
お客様の不安が溜まると不満になる
サービスは失点しないことが大前提ですが、時には失敗してしまうこともあるでしょう。意識したいのが、お客様の不安を溜めないことです。小さな不安の例には以下があります。
- スタッフの表情が暗い(「ちゃんと接客してくれるのかな?」という不安)
- 料理が出てくるのが遅い(「ちゃんとオーダーは通っているのかな?」という不安)
- 水がぬるい(「衛生面は大丈夫かな?」という不安)
不安は3つ溜まると不満になるといわれています。1つ目の不安に気づければ、その後の接客で挽回できるチャンスもあるので、お客様の表情や行動から不安を感じ取るようにしましょう。
接客で大切な2つのホスピタリティマインド
お客様にとっての「当たり前」であるサービスを行ったうえで、他のお店と差別化するためには以下2つのホスピタリティマインドが大切です。
- もっと喜んでいただくにはどうしたらいいか?
- 何かお困りごとはないか?
この2つのホスピタリティマインドを持って接客することが、お客様に喜んでもらえる近道となります。それぞれを確認していきましょう。
もっと喜んでいただくにはどうしたらいいか?
お客様が外食する目的はさまざまですが、1番の目的は「食事の場を楽しく過ごしたい」ということです。飲食店のスタッフは「お客様にもっと喜んでいただくにはどうしたらいいか?」を常に考える必要があります。
そのためには、グループの来店であっても、お客様1人ひとりのことを考えて笑顔で接することが大切です。例えば、家族で幼児を連れて来店されたときは、お子さまの食事を先に出したり、少しだけお子さまと遊んだりすることで、お母さまが食事を楽しむ余裕が生まれます。
わざわざお店に来てくれたお客様1人ひとりに感謝の気持ちを表して、少しでも楽しく過ごしてもらえるように努力しましょう。
何かお困りごとはないか?
飲食店の接客業では、お客様のお困りごとを解決することも大切です。
お客様のお困りごとは、表情や行動に表れます。例えば、席を立ったお客様はトイレを探しているかもしれません。「お手洗いはあちらです」と一言かけることで、トイレを探す手間をかけさせずに済みます。食事をしていて表情が曇ったお客様がいれば「何かございましたか?」とタイミングを見てお声がけしましょう。
小さな不安は大きな不満につながります。常にお客様のお困りごとを解決するというマインドを持って、接客することが大切です。
ホスピタリティはマニュアル化できない!
「おもてなし」という言葉が流行したように、日本の飲食店ではサービスとホスピタリティが融合した接客となっているのが特徴です。しかし、サービスとホスピタリティは別物であり、切り分けて考える必要があります。
ホスピタリティはマインドであり、マニュアル化はできません。お客様を喜ばせたい、お困りごとを解決したいと心から思って接客することで、ホスピタリティマインドが育まれていきます。常にお客様1人ひとりに対してはもちろん、スタッフ同士にも全力でホスピタリティマインドを持って接することで育まれていくのです。